「うちの子だけ跳び箱が跳べない」——保護者の方から多くいただく相談です。跳び箱は「跳べた/跳べない」がはっきり見える種目。だからこそ本人も落ち込みやすく、家族も声のかけ方に迷います。跳べない子に共通して起きていることと、恐怖心をやわらげる取り組み方をお伝えします。

跳び箱が跳べない子に共通する「技術面」のつまずき

開脚跳びは、助走・踏み切り・手をつく・体を送り出す・着地がひとつながりになった運動です。一か所リズムが崩れると、その先がつながりません。よくあるつまずきは4つです。

助走が速すぎる、または直前で止まる

助走は速ければいいわけではありません。速すぎると踏み切りの位置が合わず、体が前に流れます。逆に怖いお子さんは踏み切り板の直前で無意識にスピードを落とし、ほぼ止まった状態から跳ぼうとします。前に進む力がないので、跳び箱の上に乗る形になる。「同じリズムで最後まで走り切る」ことが土台です。

踏み切りが片足になっている

踏み切りは両足そろえてが基本ですが、勢いのまま片足で踏み切る子は少なくありません。片足だと上に上がる力が出にくく、体が手前で沈みます。走る動きから両足ジャンプへ切り替える動作自体が、小学生には難しい課題です。

手をつく位置が手前すぎる

最も多いつまずきです。怖いと感じると人は近くに手をつきたくなります。手前につくと体が手より後ろに残り、腰が上がらず前に進めません。手をつくのは跳び箱の「向こう側」。奥に手をつき、その手で体を後ろへ押し返すイメージが持てると動きは大きく変わります。

着地の見通しが立っていない

「跳んだ先がどうなるか分からない」状態は、体を止めるブレーキになります。着地で止まれた経験が増えると、跳ぶ前の不安は小さくなります。

技術より先に立ちはだかる「恐怖心」

実際の現場では、恐怖心が先にあって技術が崩れているケースがほとんどです。跳び箱は硬く高さがあり、体をぶつけた記憶がある子には「痛かったもの」として残っています。頭では跳びたくても体がブレーキをかける。これは弱さではなく、身を守るための自然な反応です。

ですから「怖くないよ」と繰り返してもあまり効果はありません。必要なのは怖さを小さく分解し、ひとつずつ「これは平気だった」を積み上げることです。

いちばんの落とし穴は「段数を上げること」が目的になること

跳び箱には段数という分かりやすい数字があるため、「何段跳べたか」が目標にすり替わりがちです。周りが5段を跳んでいると、まだ形ができていない子まで5段に挑戦させてしまう。すると失敗と痛い思いが増え、恐怖心がさらに強くなる悪循環に入ります。

大事なのは、段を下げてでも正しい動きの順番を体で覚えることです。低い段で「奥に手をつく」「体を前に送る」「止まって着地する」感覚が身についていれば、段が上がってもやることは同じ。逆に崩れた形のまま高い段を跳び続けると、その形が癖として固まります。遠回りに見えて、下げるほうが近道です。

恐怖心をやわらげる練習の順番

本人が「平気だった」と感じられたら次へ進みます。飛ばさないことが早道です。

  • ステップ1|跳ばずにまたぐ:低い段に手をついて、またいで降りるだけ。「跳び箱に体を預けても平気」という感覚から始めます。
  • ステップ2|座って降りる:跳び箱の上に座り、手で体を支えて前に降ります。腕で自分の体を支えられる実感が生まれます。
  • ステップ3|馬跳び:四つん這いになった保護者の背中を跳び越えます。柔らかく低いので痛くなく、「奥に手をついて体を前に送る」動きをそのまま体験できます。
  • ステップ4|手をつく位置だけ練習する:低い段や布団を重ねた台にテープで目印を置きます。跳ぶことは求めず、正しい位置に手が置けたら成功。
  • ステップ5|両足踏み切りだけ練習する:床に線を引き、走ってきて線の上で両足をそろえてジャンプ。跳び箱がなくてもできます。
  • ステップ6|低い段で通してやる:段は思い切って低く。形ができてから少しずつ上げます。

器具がなくても家や公園でできます。馬跳び、両足ジャンプ、手押し車、床に手をついて腰を高く上げる遊びなど。腕で体を支える経験そのものが跳び箱の土台です。

家庭でできる声かけ——「できた事実」を言葉にして返す

声かけは子どもの動きを大きく変えます。ポイントは、感情を否定したり指示を足したりせず、目の前で起きたことをそのまま言葉にして返すことです。

  • 「怖くないよ」ではなく → 「怖いよね。じゃあ今日はまたぐだけにしようか」
  • 「もっと頑張って」ではなく → 「さっきより奥に手がついてたよ」
  • 「なんで跳べないの」ではなく → 「最後まで走るの、止まらなかったね」
  • 「〇〇くんは跳べてるよ」ではなく → 「先週は座るまでだったね」

他人ではなく過去のその子と比べる。「上手だね」という評価ではなく「手が奥についた」という事実を返す。事実で返されると、子どもは自分の体で何が起きたかを覚え、それが次の一歩になります。

指導するのは野本佳輝コーチです

文章で読むより、一度きちんとした環境で体を動かすほうが早いこともあります。NPO法人スエニョデポルテス/ヴェルディ相模原では、2027年4月の開講に向けて体操教室を準備しています。

指導するのは野本佳輝コーチ。体操指導歴14年、高等学校教諭一種免許状(保健体育)を持ち、元ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのアクロバットパフォーマー、テレビ『世界の果てまでイッテQ!』でのアクロバット指導、東京・埼玉・神奈川で正課体育指導9園という経歴です。跳べる子にも怖い子にも、その子に合った段階から一緒に取り組みます。

「跳べるようにする」ことよりも、「体を動かすのは楽しい」と感じてもらうこと。それがいちばんの目標です。

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